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ヘッジホッグ秩序相における非相反ダイナミクスの解明
2023年09月7日
ヘッジホッグ秩序相における非相反ダイナミクスの解明
国立大学法人九州工業大学大学院工学研究院基礎科学研究系の渡辺真仁教授が研究代表者を務める固体物性理論研究室は、近似結晶*1のヘッジホッグ秩序相*2における磁気ダイナミクスを理論的に解明しました。非相反な動的磁気励起を発見し、そのメカニズムを対称性の観点から説明しました。この発見は、物性物理学における重要な研究成果であり、今後さらに研究が進展することで物質の新機能の開拓につながることも期待されます。
ポイント
- 近似結晶のヘッジホッグ秩序相における磁気ダイナミクスを理論的に解明
- 非相反な磁気励起のエネルギー分散関係を発見
- 非相反な磁気ダイナミクスの出現機構を対称性の観点から説明
鉄の磁石が示す強磁性のように、電子の磁気モーメントが結晶全体にわたって秩序化する磁気秩序相における励起状態はマグノン*3とよばれる量子化された波として振る舞うことがよく知られています。最近、図(a)のようなヘッジホッグ(ハリネズミの意味)状態とよばれる磁気構造が理論計算により発見されました。この状態はトポロジカル数n=1で特徴づけられる、トポロジカルに非自明な磁気構造であることが理論的に示され、注目を集めています。通常の磁性体とは異なり、図(a)のような非共線的なトポロジカル磁気構造における磁気励起の性質はこれまでよくわかっていませんでした。
本研究では、図(a)の一様なヘッジホッグ秩序について動的磁気構造因子S(q,ω)の理論計算を行いました。ここで、qは波数ベクトル*4であり、図(b)に示す波数空間のΓ→H→N→P→Γ→Nの経路に沿ってS(q,ω)を図示したのが図(c)です。図(d)は波数空間の逆の経路に沿ったS(-q,ω)を図示しています。図(c)と図(d)の比較より、N→P→Γの波数ベクトルに対するエネルギーωがqと-qについて等しくないことがわかりました。この結果は、磁気励起の波の進行方向を逆にするとエネルギーが異なる、非相反な励起エネルギー分散を示しています。さらに、N→P→Γの経路において動的磁気構造因子の強度がqと-qで異なることもわかりました。この非相反な動的磁気励起の出現は、図(a)に示す一様なヘッジホッグ秩序が形成されたことによる空間反転対称性の破れに起因することを明らかにしました。
今後、近似結晶および準結晶の磁気ダイナミクスの研究が活発に行われ、非相反動的磁気励起の実験による観測、ならびに物質の新機能の開拓につながることも期待されます。
なお、この研究成果は、2023年9月2日(土)午後6時(日本時間)に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports(Springer Nature社)」に掲載されました。
用語解説
*1 近似結晶:準結晶*5と共通の局所原子配置をもち、周期性を持つ固体を近似結晶とよぶ。1/1近似結晶、2/1近似結晶、…のように近似度m/nに応じてm/n近似結晶が定義される(m、nはフィボナッチ数)。
*2 ヘッジホッグ秩序相:電子の磁気モーメントが図(a)のように20面体の外側に向いた磁気構造をヘッジホッグ状態とよび、その状態が結晶全体にわたって一様に秩序化した相。
*3 マグノン:希土類原子の磁気モーメントは量子化された4f電子のスピンと軌道角運動量の合成角運動量から成る。磁気モーメントが秩序状態から揺らぎながら空間的に伝搬し、波として振る舞う量子をマグノンとよぶ。
*4 波数:単位長さあたりの波の個数を表す物理量。量子力学におけるプランク定数と波数の積は運動量である。図(c)と図(d)の横軸は波数をベクトル表示した波数ベクトルqで、図(b)のΓ→H→N→P→Γ→Nの経路におけるqを示す。
*5 準結晶:周期結晶では許されない回転対称性をもつ結晶構造をもつ。準結晶は1984年にイスラエルの金属学者であるダニエル・シェヒトマンにより発見され、同氏はこの功績によりノーベル化学賞(2011年)を受賞している。
【論文の詳細情報】
論文タイトル | “Magnetic dynamics and nonreciprocal excitation in uniform hedgehog order in icosahedral 1/1 approximant crystal” |
著者 | Shinji Watanabe |
雑誌名 | Scientific Reports |
DOI | 10.1038/s41598-023-41292-1 |
※ 本研究は JSPS科研費18K03542, 19H00648, 22H04597, 22H01170, 23K17672 の助成を受けたものです。
【研究内容に関するお問い合わせ】
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